個人事業主が法人化するタイミングや後悔しない年収の目安など条件をご説明

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本記事は、法人化を検討している個人事業主を対象に、法人化のメリット・デメリット、適切なタイミングや条件、具体的な手続きについて詳しく解説しています。法人化の利点と注意点、法人設立に必要なステップや、設立後の税務・社会保険手続きなども網羅しました。法人化を成功させるために、基礎知識をしっかりと押さえたい方に最適な内容です。ぜひ最後までご覧ください。

目次

法人化を後悔しないタイミングや条件とは?

法人化を検討する際には、適切なタイミングや条件を見極めることが重要です。以下に、法人化を考えるべきポイントを箇条書きで整理しました。これらの条件を満たしている場合、法人化による恩恵を最大限に受けられる可能性があります。
・年間所得が800万円を超えたとき
・年間売上が1,000万円を超えたとき
・事業拡大やそれにともなう資金調達がしたいとき
・従業員を募集したいとき
・常用労働者が5人以上になったとき
・国民健康保険料の負担が重いとき
これらを基準に、自身の状況を冷静に判断し、最適な選択をしましょう。

年間所得が800万円を超えたとき

年間所得が800万円を超えたタイミングが法人化を検討する一つの目安とされています。これは、所得税と法人税の税率差や、節税メリットを考慮した結果です。個人事業の所得が800万円の場合、個人事業主の税率は23%ですが、法人税の税率は15%に抑えられます。控除分を考慮しても法人の方が納税金額は低くなります。
ただし、条件によって税率が変わる可能性があるので、所得が700万を超えたら専門家に相談してもよいでしょう。

年間売上が1,000万円を超えたとき

個人事業主の年間売上が1,000万円を超えると、翌々年から消費税の納税義務が生じます。しかし、法人化することで、資本金1,000万円未満で設立し、1期目の前半6か月間の課税売上高が1,000万円以下であるといった条件を満たせば、最大2年間消費税の納税が免除される可能性があります。そのため、このタイミングで法人化を検討すれば、消費税の負担を抑え、節税効果を高めることができるでしょう。

事業拡大やそれにともなう資金調達がしたいとき

法人化を行うことで、社会的な信用度が大幅に向上します。個人事業主は基本的に個人の信用に基づいて事業を行いますが、法人になると法人格が与えられ、登記情報が公に公開されるため、会社の存在が客観的に証明されます。このため、取引先や金融機関からの信頼を得やすくなります。
さらに、法人は大規模な契約や資金調達が必要な際に有利です。例えば、銀行融資では法人の方が審査基準が緩和される可能性があり、株式発行などの資金調達手段も利用できます。法人化により社会的な信頼と資金調達の選択肢が広がると、事業拡大を円滑に進められる環境が整います。

従業員を募集したいとき

法人化することで信用力が向上し、優秀な人材を集めやすくなります。法人は登記情報が公開されているため、その存在が明確に証明され、社会的信用が高まります。この信用度の高さは、特に求職者にとって「安定した雇用先」として認識されやすいというメリットにつながります。

常用労働者が5人以上になったとき

常用労働者が5人以上いる場合、社会保険の強制適用事業所に該当します。これは法人・個人事業主にかかわらず適用される規定であり、雇用主には健康保険や厚生年金の加入義務が生じます。法人化を行うと、社会的信用度が向上し、労働者の安心感や新しい労働者に対しても福利厚生の充実を訴求できます。

国民健康保険料の負担が重いとき

個人事業主として国民健康保険に加入していると、所得が増加するにつれて保険料が高額になることがよくあります。この負担を軽減する方法の一つとしても法人化は有効です。法人化すると、個人事業主の国民健康保険から会社負担がある社会保険(健康保険・厚生年金)に切り替わります。社会保険料は労使折半となるため、個人の負担軽減が期待できるでしょう。
また、社会保険は給付内容が充実しており、将来的な年金額も増えるため、従業員にとっても魅力的な制度です。そのため、国民健康保険料が高額で負担が大きいと感じている場合は、法人化を検討すると、保険料の負担を抑えると同時に社会保険のメリットを享受できます。

条件をクリアし法人化して得られるメリット

法人化することで得られるメリットは多岐にわたります。以下に代表的な項目を箇条書きで挙げます。これらのポイントを参考に、法人化による具体的な利点を理解していきましょう。
・役員報酬を損金として扱える
・役員への退職金を損金扱いにできる
・消費税の納付が最大2年免除される
・赤字を10年間繰り越せる
・生命保険料を経費にできる
・事業が継続しやすくなる
・賠償範囲を制限できる
・決算月を任意で決められる
上記のポイントを基に、法人化のタイミングや条件を慎重に検討してみましょう。

役員報酬を損金扱いにできる

法人化すると、法人税法に基づく制度で、役員報酬を法人の損金として認めることで、法人の課税所得を減らし節税効果が期待できます。
個人事業主の場合、売上から必要経費を差し引いた後の所得に直接課税されます。一方、法人化すると自身の給与(役員報酬)を損金として計上できるため、法人の所得が減少し、結果として法人税が軽減されます。
ただし、役員報酬を損金とするためには、一定の要件を満たす必要があります。たとえば、支給額が毎月一定であることや、会社設立から3ヶ月以内に役員報酬を決定することです。この仕組みを活用すると、法人化の大きな節税メリットを享受できます。

役員への退職金を損金扱いにできる

法人化すると法人税法上、退職金が損金として認められるため、法人の課税所得を減らす効果があります。一方で個人事業主の場合、支払う退職金は損金になりません。
ちなみに役員退職金は、退職時の労働への対価として支給されるため、株主総会の決議を通じて正当な金額であることが担保され、年度内に支給されなければ損金として認められません。また、退職金は「退職所得」として扱われ、受取人にとっても他の所得に比べて税制上の優遇が受けられます。

消費税の納付が最大2年免除される

法人化には最大2年間、消費税の納税が免除されるというメリットがあります。個人事業主・法人ともに年間売上が1,000万円を超えると課税事業者となり、消費税の支払い義務が生じます。しかし、法人化した場合、設立後の1期目と2期目は「2年前の売上」が存在しないため、原則として消費税が免除される仕組みになっています。

ただし、この優遇措置を受けるには、資本金1,000万円以下で法人を設立することが条件となります。また、1期目の前半6か月の売上が1,000万円を超えた場合や、役員報酬を含む人件費が1,000万円を超えると、2期目から課税対象となるため注意が必要です。法人化のタイミングを見極め、適切な節税対策を行いましょう。

赤字を10年間繰り越せる

法人化すると、赤字(欠損金)を10年間繰り越して控除できるようになります。すなわち赤字が発生した年度の後で利益が出た際に、過去の赤字と相殺して、課税所得を減らすことが可能です。一方、個人事業主では青色申告すると3年間しか赤字を繰越せません。
法人化するとより長期的に赤字を繰り越せるため、控除期間内で黒字が出た際に赤字と相殺することで、課税対象となる所得を減らし、事業が安定するまでの間に大きな節税効果が期待できます。そして、設立当初や大規模な投資を行った後の赤字を長期的に活用できる点は、法人化の大きなメリットです。

生命保険料を経費にできる

法人化すると、従業員を被保険者とし、受取人を法人とした法人契約に限り、生命保険料の一部を経費として計上できます。個人事業主の場合、生命保険料は経費として計上できず、所得控除として申告する範囲に留まりますが、法人契約であれば保険料の一部を経費計上すると課税所得を減らせます。ただし、生命保険の種類によっては、経費計上ができない場合があるので確認しましょう。

事業が継続しやすくなる

法人化すると、事業が継続しやすくなるという大きなメリットがあります。個人事業主の場合、事業主の死亡や病気が直接事業の存続に影響を与えるため、取引先にとってリスクと捉えられる場合があります。しかし、法人化すれば事業主の個人的な事情に左右されることなく、事業の継続が可能となります。
さらに、法人化により事業の資産や負債が法人名義となるため、事業の相続が円滑に行える点も重要です。法人の株式を相続する形になるため、事業の支配権を維持しつつ、遺産分割のトラブルを防ぐことができます。個人事業では相続手続きが遅れると事業用口座が凍結される可能性がありますが、法人であればそのようなリスクはありません。
また、法人としての信用力が向上すると取引先や金融機関からの信頼が得やすくなり、事業の成長や安定にもつながります。

賠償範囲を制限できる

個人事業主の場合、事業における全ての責任を個人が負い、経営が悪化した際には事業用の債務だけでなく個人の財産まで差押えられる可能性があります。これを「無限責任」といいます。
一方で、法人化すると法人の資産のみが事業運営の責任範囲となります。法人化した場合の責任は原則として出資した資本金の範囲内に限定され、これを「有限責任」と呼びます。この仕組みにより、事業の失敗が発生した場合でも、経営者個人の財産を守ることが可能です。
このように、賠償範囲の制限により事業のリスクを軽減しつつ事業を運営できる点は、法人化の大きな利点です。

決算月を任意で決められる

個人事業主の場合、事業年度は1月1日から12月31日と固定されており、12月の決算月は変更できません。一方、法人では、事業年度を任意に決められるため、柔軟な事業運営ができます。例えば繁忙期を避けた時期を決算月にすると、事務作業の負担を軽減できるでしょう。
決算月を事業の閑散期に設定すれば、決算準備に十分な時間を確保できるだけでなく、税理士や会計士の繁忙期ではないためサポートを受けやすくなる利点もあります。また、事業の資金繰りや経営計画の都合に合わせて決算月を調整することで、財務管理がより効率的になります。一般的に、株式会社や合同会社の多くは3月を決算月に設定しています。

条件クリアで法人化しても起こり得るデメリットとは?

法人化には多くのメリットがありますが、デメリットも存在するため、しっかり理解し、慎重な検討が重要です。
・赤字でも税金の支払いがある
・社会保険に加入する必要がある
・会計や事務手続きなどが増える
・プライベートで使えるお金が制限される
・役員報酬の変更に制限がある
・法人化にあたり費用がかかる
・交際費が全額損金にできない場合がある
これらの点を把握し、法人化が自社に適しているか判断しましょう。

赤字でも税金の支払いがある

法人化した場合、赤字でも税金の支払い義務が発生する点に注意が必要です。法人が支払う税金の中で、法人住民税の「均等割」は所得金額に関係なく、資本金や従業員数に基づき定額で課税されます。そのため、事業が赤字で利益がなくても納税が求められます。
法人住民税の均等割以外にも、事業用の資産に対して課せられる固定資産税や、給与支払い時に発生する源泉所得税など、赤字かどうかに関係なく支払いが必要な税金があります。
これらの税負担は、法人化のコストとして事前に考慮しておくことが重要です。収益が安定していない段階で法人化すると、税金の支払いが経営を圧迫する可能性がある点を把握しておきましょう。

社会保険に加入する必要がある

法人化すると、健康保険や厚生年金保険といった社会保険への加入が義務付けられます。この法定福利費(社会保険料の法人負担分)は、国民健康保険や国民年金に比べて企業負担分が発生するため、支払額が高くなる点に注意が必要です。
一方で、従業員にとってみれば、厚生年金は国民年金よりも将来受け取れる年金額が多くなるため、老後の生活保障が手厚くなります。また、健康保険の給付内容も国民健康保険より充実しているため、メリットがあります。
社会保険への加入は、経営者だけでなく従業員にとっても福利厚生の充実として評価され、結果的に優秀な人材の確保や定着に寄与する可能性があります。そのため企業負担の増加は事業運営における必須のコストとして事前に計算しておく必要があります。

会計や事務手続きなどが増える

法人化すると、会計や事務手続きが増加する点に注意が必要です。法人では、法人税申告書や決算書(財務諸表)の作成が義務付けられます。これらは個人事業主の確定申告よりも内容が複雑で、多くの資料やデータを準備する必要があります。
また、社会保険の加入手続きや源泉徴収税の納付書作成、従業員の給与支払報告書や源泉徴収票の発行など、法人特有の業務が発生します。これらの作業には時間と労力がかかり、事務負担が増えるため、場合によっては専門家のサポートが必要になることもあります。
さらに、税理士や会計士に業務を委託するとコストがかかるため、事務負担軽減とコスト増加のバランスを考慮した経営計画が重要です。法人化を検討する際は、この事務作業の増加をしっかりと理解することが大切です。

プライベートで使えるお金が制限される

法人化すると、プライベートで使えるお金が制限される点に注意が必要です。法人のお金は法人のものであり、個人の経費を自由に使用はできません。プライベートに充てるには、役員報酬や賞与として個人に支払う形を取る必要があります。
また、法人税法により、役員報酬の額は一度決定すると原則として1年間変更できず、これが個人のキャッシュフローに影響を及ぼす場合があります。さらに、役員賞与を支払う場合には、設立から2か月以内に税務署に届け出る必要があります。
このように、法人化後は個人と法人の資金を明確に分ける必要があるため、事前の資金計画立案が重要です。

役員報酬の変更に制限がある

法人化で設定する役員報酬は決算日から3ヶ月以内に「定期同額給与」として金額を決定しなければなりません。この金額は原則として事業年度中に変更できず、もし決算日から3ヶ月を過ぎた後に変更した場合、その役員報酬は損金として計上できなくなります。
損金として認められなくなると、法人の課税所得が増加し、結果的に税負担が重くなる可能性があります。このような制約を避けるためには、適切な計画を立てて役員報酬の金額を慎重に設定する必要があります。

法人化にあたり費用がかかる

法人設立時には、以下の費用がかかります。

費用の概要 解説
登録免許税 以下の高いほうの金額
株式会社:資本金額×0.7%もしくは15万円
合同会社:資本金額×0.7%もしくは6万円
定款認証費用 株式会社:公証役場での定款認証に3〜5万円。
合同会社:不要
資本金 法人設立時に必要な資金(一般的に初期費用と運転資金3ヶ月分ほど)
司法書士手数料 設立手続きを司法書士に依頼する場合に発生する費用。通常数万円程度。
印鑑作成費用 法人用の実印や銀行印などの作成に必要な費用。数千円から数万円程度。
設立後の初期運営費用 社会保険加入手続きや各種契約の変更などに伴う費用が発生する場合がある。

法務局に登録免許税を支払う必要があり、株式会社の場合は「資本金額×0.7%」で算出され、最低15万円が必要です。一方、合同会社の場合は同様の計算式で最低6万円です。また、定款の認証費用や司法書士に依頼する場合の手数料も追加されます。
さらに、資本金として通常は運転資金として数か月分を含めた金額を用意します。これらの初期費用は法人化で生じる一時的な負担となりますが、事業規模や運営方針に応じて試算するとスムーズな法人設立が可能です。

交際費が全額損金にできない場合がある

法人化すると、交際費が全額損金にできない場合がある点に注意が必要です。個人事業主の場合、交際費は全額経費として計上可能ですが、法人では制限があります。資本金1億円以下の法人では、飲食を伴う交際費の50%のみが経費として認められ、また、年間800万円が上限となります。
さらに、資本金が1億円を超える法人や交際費が多い個人事業主が法人化する場合、交際費は原則として経費の計上が減る可能性があります。このため、法人化を検討する際には、交際費の利用頻度や金額を考慮し、節税効果が低下する可能性を見越して計画を立てる必要があります。

あえて法人化しない方が良い条件とは?

法人化には多くのメリットがありますが、あえて法人化しないほうが良い場合もあります。以下にその条件を箇条書きで示します。自身の事業規模や状況を冷静に見極めることが重要です。
・事業の拡大を考えていない場合
・組織で運営したくない場合
・手続きや事務作業を簡単にしたい場合
・信用がそれほど必要でない場合
・売上の波が激しくて安定していない場合
・創業後の資金調達が難しい場合
これらに該当する場合、法人化のメリットが十分に享受できない可能性があるため、個人事業主のままでいることも一つの選択肢です。

事業の拡大を考えていない場合

事業の拡大を考えていない場合、課税所得が一定水準以下であれば個人事業主の方が税負担が軽い可能性があります。個人事業主の所得税は累進課税で、課税所得895万円超〜900万円以下では23%です。一方、法人税は課税所得が800万円以下までの部分に15%(資本金1億円以下の場合)、800万円を超える部分は23.2%に上がります。

所得区分 所得税率 (個人)
195万円以下 5%
195万円超〜330万円 10%
330万円超〜695万円 20%
695万円超〜900万円 23%
900万円超〜1800万円 33%
所得区分 法人税率 (法人)
800万円以下までの部分 15%(800万円以下)
800万円超部分 23.2%

したがって、課税所得が900万円以下の場合、所得税の方が低い税率で済むため、個人事業主のままの方が有利です。特に事業規模を拡大せず、現状維持で安定した運営を目指している場合は、法人化のメリットが限定される可能性があるため、法人化を急ぐ必要はないといえるでしょう。

組織で運営したくない場合

法人化を検討する際に、自分で経営方針を決めたい、または自分のペースで働きたい人には個人事業主の形態が向いている場合があります。法人では、出資者や役員など利害関係者が増えるため、経営方針の決定には関係者との合意が必要となります。その結果、自分の意思だけで経営を進めにくくなる場合もあるでしょう。
一方、個人事業主であれば、事業方針や運営方法を完全に自身でコントロールできます。特に、自分のペースで働きたい、自分だけの裁量で事業を進めたい場合は、無理に法人化せず、個人事業主としての形態を維持することも有効な選択肢となります。

手続きや事務作業を簡単にしたい場合

法人では、法人税の申告書作成や決算書類の作成が必要となり、これらは個人事業主の確定申告よりも内容が複雑です。また、社会保険の加入手続きや給与支払報告書の作成、役員報酬の取り扱いなど、法人特有の事務作業が発生します。
さらに、法人では各種届出や報告義務も増えるため、事務負担が大きくなります。税理士や会計士への委託も可能ですが、その場合にはコストが発生します。手間やコストを最小限に抑えたい場合、個人事業主としての形態を維持することが現実的です。本業が疎かにならないよう、節税できるなどの法人化のメリットと比べてどちらがよいか検討しましょう。

信用がそれほど必要でない場合

法人化すると社会的な信用度が高まり、大規模な取引や金融機関からの融資が受けやすくなるというメリットがあります。しかし、個人事業主として地域密着型の小規模な取引を行っている場合や、既存の顧客や取引先との信頼関係がすでに十分に構築されている場合など、事業の性質上、信用がそれほど重要でない場合には、法人化の必要性は低いかもしれません。
また、法人化には設立や維持のための費用がかかり、手続きや事務負担も増加するため、これらのコストをかける価値があるかどうかを慎重に判断しましょう。

売上の波が激しくて安定していない場合

法人化すると、赤字でも支払わなければならない法人住民税の均等割や、社会保険料の負担が発生します。これらは事業の収益に関係なく一定額が発生するため、売上が不安定な事業では大きな負担となる可能性があります。
また、法人ではたとえ赤字でも、法人住民税の均等割を納める必要があります。一方、個人事業主では収益に応じて税負担や生活費を柔軟に調整できるため、売上の変動が大きい場合には個人事業主の形態が適していると言えます。
法人化のメリットを享受するためには、事業の収益が一定以上で安定していることが重要な条件となります。

創業後の資金調達が難しい場合

法人化を検討する際、設立時の費用だけでなく、創業後の資金調達の見通しも重要です。法人化には設立費用に加え、維持費や運転資金が必要です。例えば、法人税や社会保険料、税理士への年間契約料など、毎年一定の費用が発生します。これに加えて、事業が拡大する際の資金需要も考慮する必要があります。
創業後のピーク時にかかる費用を十分に準備できない場合、キャッシュフローが圧迫され、事業運営が難しくなるリスクがあります。こうした資金的余裕がない場合は、法人化の見送りも有力です。

法人化の条件を知ったら手順を確認しよう

法人化の条件を理解したら、次は具体的な手順を確認しましょう。以下に法人化の流れと、法人化完了後の必要な作業を示します。計画的に進めスムーズな法人化を可能にするため参考にしてください。

法人化の流れ

法人化は以下の手順で進めます。
①会社の基本的な事項を決める
②法人用の実印を作成する
③資本金を準備する
④定款を作成する
⑤資本金を振り込む
⑥登記申請書類を作成後に法務局で申請する
いざ実行するときに慌てないよう、しっかり確認していきましょう。

①会社の基本的な事項を決める

法人化は、定款に記載する会社の基本的な事項を定めるところから始めます。

概要 解説
商号(会社名) 他社と重複しない名称を選ぶ必要があるため、法務局での確認をおすすめします。
所在地 本店所在地を決定します。自宅も設定可能ですが、登記や郵便物の管理に配慮が必要です。
事業目的 会社が行う事業内容を具体的にします。
役員構成 会社を運営する取締役や監査役を決定します。株式会社の場合、最低1名の取締役が必要です。
資本金の額 会社の規模や運転資金に応じて設定します。最低1円から設定可能ですが、信用面での影響も考慮したいところです。
決算日 事業年度を締める日で、繁忙期を避けたタイミングが一般的です。

上記の基本事項を決定することで、法人設立の準備が円滑に進められるため、おろそかにせず取り組みましょう。

②法人用の実印を作る

法人設立時には、会社用の印鑑を複数用意する必要があります。事業運営に欠かせないもので、それぞれ用途が異なります。以下に、主要な印鑑とその用途をまとめました。

印鑑の種類 用途
代表者印(実印) 法務局での登記申請や契約書類への押印に使用します。法人を代表する重要な印鑑で、公的な手続きに不可欠です。
銀行印 法人名義の銀行口座開設や金融取引に使用されます。資金管理の要となるため、一般的に代表者印とは別にします。
角印 社内文書や請求書、見積書などの事務手続きに使用します。
ゴム印 住所や社名を簡単に押印するための印鑑です。郵便物や簡易な書類での使用に適します。

法人における印鑑は、会社の信用や効率的な業務運営を支える重要な道具です。適切に選び、しっかり管理してトラブルを防ぎ、スムーズな事業運営を実現しましょう。

③資本金を準備する

資本金は会社の規模や初期運転資金を示す重要な要素であるため、法人設立時に十分な準備が必要です。以下に資本金の要点をまとめました。

項目 解説
資本金の最低額 株式会社・合同会社ともに資本金は1円から設定可能です。ただし、信用度や事業規模を考慮し適切な金額を設定します。
初期運転資金 設立直後の3か月~半年分の運転資金を資本金に含めるのが一般的です。事業運営を安定させるための目安となります。
与信調査での影響 資本金額は取引先の与信調査で評価されるため、適切な金額が信用力向上に寄与します。
銀行借入限度額への影響 銀行融資を受ける際、資本金額が評価基準の一つとなるため、金額が大きいほど借入の可能性が広がることがあります。

資本金の金額設定は、事業の信頼性や運営に大きく影響するため、慎重な検討が求められます。専門家に相談しながら適切な計画を立てることが成功の鍵となります。

④定款を作成する

定款は法人設立時に作成する法的文書で、会社の基本情報を記載した非常に重要な書類です。定款の記載内容は、「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」の3つに区分されます。必ず書かなければならない絶対的記載事項を以下に、まとめています。

項目 解説
会社の目的 会社が行う事業内容を具体的に記載します。不明確な内容や範囲外の事業は認められません。
商号(会社名) 会社の名称を記載します。ユニークで他社と重複しない名称を選ぶ必要があります。
本店所在地 会社の本拠地となる住所を記載します。定款では最小行政区画までの記載が可能です。
事業年度響 決算月を含む事業年度を記載します。事業運営や税務処理において重要な情報です。
発起人の氏名と住所 会社設立を行う責任者(発起人)の情報を記載します。

定款は紙媒体または電子定款の形式で作成でき、株式会社の場合は公証役場での認証が必要です。正確かつ漏れなく作成するため、専門家への相談も検討すると良いでしょう。

⑤資本金を振り込む

資本金の払い込みは、法人設立の重要なステップの一つです。この手続きでは、発起人や出資者が指定された銀行口座に資本金を振り込み、会社の資金を正式に確保します。
払い込みには、発起人または設立時取締役の個人口座を利用します。法人口座の開設は設立後のため、資本金の払い込みは個人口座で行う必要があるからです。また、資本金の最低金額は1円から設定可能ですが、事業の信用力や運転資金を考慮して十分な金額を準備しておくべきでしょう。
振込後には、預金通帳の写しを添付して「払込証明書」を作成し、登記申請時に法務局へ提出します。

⑥登記申請書類を作成後に法務局で申請する

法人設立の最後のステップは、登記申請書類を作成し、法務局へ申請することです。この手続きによって法人格が正式に認められ、会社が法律上成立します。
申請に必要な主な書類には、登記申請書、定款(電子定款の場合も含む)、払込証明書、取締役や監査役の就任承諾書、発起人の決定書、印鑑届出書などがあります。これらを正確に作成し、不備がないようにすることが重要です。特に、書類の内容が商業登記法に基づいていることを確認してください。
登記申請は設立日を確定する重要な作業であり、法務局に書類が受理された日が設立日となります。書類提出後、通常は1〜2週間で登記が完了し、登記事項証明書や印鑑証明書が発行されます。

法人化完了後の流れ

法人化が終わったら、以下の流れで事業展開のための準備を進めましょう。
①個人事業の廃業手続きを行う
②資産・負債を法人に移行する
③青色申告承認申請書を提出する
④登記事項証明書・印鑑証明書を取得する
⑤法人設立届出書を提出する
⑥社会保険への加入手続きを行う
法人化が終わってもすぐに法人としてスムーズに運営できるわけではないので、正確な手順を確認していきましょう。

①個人事業の廃業手続きを行う

法人化を進める際、個人事業の廃業手続きは必須です。具体的には、以下の手続きを行う必要があります。
1.個人事業の廃業届出書:廃業後1ヶ月以内に税務署へ提出し、事業の終了を届け出ます。
2.所得税の青色申告取りやめ届出書:青色申告を行っていた場合は税務署へ提出します。
3.給与支払事務所等の廃止届出書:従業員を雇用していた場合に必要です。
4.確定申告:廃業した年の分についても確定申告を忘れずに行います。
これらの手続きが完了すると、個人事業の廃業が正式に認められ、法人への移行がスムーズに進められるようになります。

②資産・負債を法人に移行する

個人事業で所有していた資産や負債を法人名義に変更して、事業運営を法人として継続できる状態を整えます。移行方法には以下のような手段があります。
資産の移行:売買契約、現物出資、賃貸借契約、贈与契約のいずれかの方法で法人に引き渡します。たとえば、車両や機械設備などは現物出資として移行することが一般的です。
負債の移行:重畳的債務引受または免責的債務引受により法人名義に変更します。金融機関との契約変更手続きが必要です。
上記に加えて個人事業としての資産や負債の整理を行い、法人として新たに記録を作成する必要があります。

③青色申告承認申請書を提出する

法人化後に青色申告を行うためには、「青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。青色申告を承認されると、法人の所得計算において特別控除を受けられるなどの税制優遇が適用されます。
この申請書は、法人設立日から3ヶ月以内、または設立第1期の事業年度終了日のいずれか早い日までに提出しなければなりません。期限を過ぎると青色申告の承認を受けられなくなるため注意が必要です。
青色申告を利用すると、赤字の繰越控除(最大10年間)や役員報酬を損金として計上できるなどの利点があります。適切な帳簿を備え付ける必要があるため、帳簿管理の体制を整備することが重要です。

④登記事項証明書・印鑑証明書を取得する

法人化後には、「登記事項証明書」と「印鑑証明書」を取得する必要があります。
登記事項証明書は、会社の基本情報(商号、所在地、資本金、役員構成など)が記載された書類で、法務局で取得できます。銀行口座の開設や各種申請手続きに必要となります。
印鑑証明書は、法務局に届け出た会社実印(代表者印)の証明書です。法人名義の重要な契約や取引に求められることが多いです。
いずれも発行には手数料がかかるため、事前に準備しておきましょう。

⑤法人設立届出書を提出する

登記事項証明書と印鑑証明書が準備できたら、税務署、都道府県税事務所、市区町村役場に法人設立届出書を提出します。設立日から原則2ヶ月以内の提出が必要です。
法人設立届出書のほかにも、以下を税務署へ提出する必要があります。
青色申告承認申請書
給与支払事務所等の開設届出書
源泉所得税の納期の特例の承認申請書
いずれも設立日から1ヶ月など期限があるので早めの提出が必要です。

⑥社会保険への加入手続きを行う

法人化後は、社会保険への加入手続きを行う必要があります。法人の場合、役員を含む全ての従業員が社会保険に加入する義務があります。この手続きは、設立日から5日以内に管轄の年金事務所で行います。さらに、従業員がいる場合は、雇用保険と労災保険の加入手続きを10日以内に行います。
提出すべき主な書類には、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」「健康保険被扶養者(異動)届」などがあります。

法人化の条件が気になる個人事業主によくある質問

法人化を検討する個人事業主からは、よく以下のような質問が寄せられます。
・個人事業主から法人化するのにかかる費用はいくらですか?
・いくら稼いだら法人化すればいいですか?
・個人事業主と法人化はどちらが得ですか?
・マイクロ法人の維持費はいくらですか?
・法人設立にかかった費用は「法人の経費」になる?
上記の疑問に対する答えを参考にポイントを押さえ、自身の状況に合った選択を検討しましょう。

個人事業主から法人化するのにかかる費用はいくらですか?

法人設立時には、約10万~24万円の初期費用が必要です。具体的には、法務局に支払う登録免許税が最低15万円(株式会社の場合、資本金額に応じて増加)で、合同会社では最低6万円となります。さらに、株式会社の場合、公証役場での定款認証費用3〜5万円が必要です。司法書士に依頼する場合は、さらに高額になります。
そのほか、司法書士に依頼した場合の手数料や法人印鑑の作成費用、資本金の額も考慮する必要があります。また、設立後は維持費として法人住民税や社会保険料、税理士への顧問料などの固定費が発生します。
これらの費用を事前に計算し、法人化のメリットと比較して判断することが重要です。

いくら稼いだら法人化すればいいですか?

法人化を検討するタイミングの目安として、課税所得が800万円を超えたら考えるのが一般的です。個人事業主の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がります。一方、法人税は800万円以下の部分は15%、800万円超の部分は23.2%と一定の税率が適用されるため、法人化によって税負担が軽減される可能性があります。
また、法人化すると役員報酬や経費として損金に算入できる範囲が広がり、課税所得を抑えることで節税につながります。さらに、法人ならではの消費税の免税制度(最大2年間)や、事業承継のしやすさなどのメリットもあります。
ただし、法人化に伴い社会保険料の負担や法人住民税の均等割が発生するため、トータルのコストと節税効果を考慮して判断することが重要です。

個人事業主と法人化はどちらが得ですか?

個人事業主と法人化のどちらが得かは、事業の規模や税負担、社会保険料、経営の自由度などを総合的に考える必要があります。

個人事業主は、開業手続きが簡単で、会計処理の負担が軽く、自由度が高いのがメリットです。しかし、所得が増えると累進課税により税負担が重くなるため、法人化による節税効果を考慮する必要があります。

一方、法人化すると税率が一定になり、経費計上の幅が広がるため、課税所得が800万円を超えたあたりで法人化を検討するのが一般的です。また、法人化すると信用力が向上し、融資や取引の拡大がしやすくなるメリットもあります。

ただし、法人化には設立コストや社会保険料の負担が発生するため、事業の成長性を考慮して判断するとよいでしょう。

マイクロ法人の維持費はいくらですか?

マイクロ法人とは、代表者1人で運営し、従業員を雇わずに事業を行う法人になり、維持費は、年間で最低約20万円から30万円程度かかります。内訳は以下のとおりです。
法人住民税の均等割:所得に関係なく課される固定税で、最低7万円(市区町村による変動あり)。
社会保険料:役員報酬に応じた保険料が発生し、報酬額を抑えることで軽減可能。
税理士顧問料:帳簿作成や確定申告を依頼する場合、年間10万円から20万円程度の費用が一般的。
その他、事業規模に応じて通信費や会計ソフトの利用料などが発生します。

法人設立にかかった費用は「法人の経費」になる?

法人設立にかかった費用は、基本的に「法人の経費」として扱うことができます。この費用は発生時期によって「創立費」と「開業費」に分かれ、会計処理上は繰延資産として計上されます。繰延資産は、利益が多く出た事業年度まで繰り越し、任意のタイミングで経費として処理できます。
創立費:登録免許税、定款の認証料、司法書士報酬など、会社設立時に発生する費用
開業費:営業開始前の広告宣伝費や市場調査費、名刺作成費など
これらの費用を適切に経費処理すると法人所得を抑え、税金負担の軽減が可能です。ただし、資本金自体は経費として計上できない点に注意しましょう。
いずれにしても正確な処理のため、税理士などの専門家へ相談をおすすめします。

【まとめ】法人化に有利な条件やデメリットを確認後に実行しよう

法人化は、事業の規模や目標に応じてメリットとデメリットを慎重に比較しながら判断する必要があります。法人化に有利な条件として、売上や課税所得が一定以上であること、社会的信用が必要な場面、事業拡大や資金調達が求められる場合が挙げられます。また、節税効果や事業継続性の向上、賠償範囲の制限などのメリットがあります。
一方で、赤字でも固定税がかかる点や社会保険料の負担、事務作業の増加など、法人化に伴うデメリットも存在します。これらを理解し、法人化に向けた適切な手続き(定款作成、登記申請など)を進めることが重要です。
事業の現状と将来を見据え、法人化が適切な選択かどうかを慎重に検討し、必要であれば専門家の助言を受けながら実行しましょう。

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