有機農業で生物多様性を高める方法！メリット・実践・補助金まで

有機農業は、単に化学肥料や農薬を使わないだけでなく、生物多様性を育むことで、持続可能な農業を実現する重要な手法です。豊かな自然と調生しながら、農作物を育むことは、健全な生態系を維持し、農業生産性を高める上でも欠かせません。

このガイドでは、有機農業が生物多様性にどのように貢献するのか、具体的な実践方法、成功事例、そして利用できる支援制度まで、網羅的に解説します。

有機農業で生物多様性を高めるポイントは以下の通りです。

有機農業と生物多様性の深い関係性を理解する
病害虫抑制や土壌改良など、生物多様性がもたらす具体的なメリットを知る
混作や緑肥、ビオトープ設置など、多様性を育む実践手法を学ぶ
補助金制度や認証制度を賢く活用し、持続可能な農業経営を目指す

この項目を読むと、有機農業を通じて自然との共生を実現し、持続可能な農業経営を築くための具体的なステップが見えてきます。反対に、ここで解説する内容を把握しておかないと、環境負荷の低減や収量安定化の機会を逃し、持続的な農業の発展が難しくなる可能性があります。後悔しないよう、次の項目から詳細を見ていきましょう。

1 はじめに：有機農業と生物多様性の深いつながり
- 1.1 有機農業と生物多様性定義・重要性
- 1.2 持続可能性・SDGsとのつながりと環境保全効果
2 有機農業で生物多様性メリットを知る
- 2.1 病害虫抑制と生態系サービス
- 2.2 土壌改良と収量安定への貢献
3 有機農業生物多様性取り組み｜実践手法ガイド
4 有機農業生物多様性事例と効果検証
5 有機農業生物多様性課題とデメリット
6 制度支援｜有機JAS認証・自然共生サイト（OECM）
7 持続可能な農業生態系サービスを育むポイント
8 行動喚起｜有機農業生物多様性保全型農業補助金を活かして素敵な未来を手に入れよう

はじめに：有機農業と生物多様性の深いつながり

有機農業と生物多様性定義・重要性

有機農業とは、化学肥料や化学合成農薬を使用せず、自然の力を最大限に活かして作物を育てる農業です。そして、生物多様性とは、地球上の多様な生命と、それらが織りなす生態系の豊かさを示すものです。有機農業は、この生物多様性を育み、維持していく上で非常に重要な役割を担っています。

【結論】

有機農業は、化学物質に頼らず、土壌の健康を保ち、多様な生物が生息できる環境を創出することで、生物多様性を豊かにします。これにより、生態系本来の機能が回復し、病害虫の抑制や土壌の肥沃化など、様々な恩恵が農業にもたらされます。

【理由】

慣行農業で使われる化学合成農薬は、ターゲットとなる害虫だけでなく、益虫や土壌微生物、さらには周辺の野生生物にも影響を与え、生態系全体のバランスを崩す可能性があります。一方、有機農業では、このような化学物質の使用を避けるため、様々な生物が生きやすい環境が自然と形成されます。例えば、多様な草花を育てることで、受粉を助けるミツバチや、害虫を捕食するテントウムシなどの益虫が増え、自然な形で病害虫の抑制が可能になります。

【具体例】

ある有機農園では、特定の作物だけでなく、様々な種類の野菜やハーブ、そして緑肥を栽培しています。これにより、年間を通じて様々な花が咲き、多種多様な昆虫が飛来するようになりました。その結果、特定の病害虫が異常発生することが減り、農薬に頼ることなく安定した収穫を得られるようになりました。これは、多様な生物が互いに作用し合うことで、自然の生態系サービスが機能している具体的な例と言えるでしょう。

【提案】

有機農業を通じて生物多様性を高めることは、持続可能な農業を実現するための不可欠な要素です。単に環境に優しいだけでなく、農業生産性そのものを高め、安定した収穫へとつながる道筋を理解しましょう。

持続可能性・SDGsとのつながりと環境保全効果

有機農業と生物多様性の保全は、持続可能性の達成と、国連が掲げる**SDGs（持続可能な開発目標）**の達成に深く貢献します。

【結論】

有機農業による生物多様性の保全は、SDGsの複数の目標達成に貢献し、地球規模での環境保全に繋がります。

【理由】

SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」では、生態系の保護と回復、生物多様性の損失を止めることが掲げられています。有機農業は、まさにこの目標を農業の現場で実践するものです。さらに、目標2「飢餓をゼロに」の持続可能な農業の推進、目標13「気候変動に具体的な対策を」の炭素貯留など、多岐にわたる目標達成に寄与します。化学肥料や農薬の製造・輸送に伴う温室効果ガスの排出を削減し、土壌中の炭素貯留能力を高めることで、気候変動の緩和にも貢献します。

【具体例】

例えば、有機農業で多用される緑肥は、土壌に有機物を供給し、土壌中の微生物を増やすだけでなく、大気中の二酸化炭素を土中に固定する炭素貯留効果があります。また、水田における冬期湛水は、イトミミズやカエルなどの水生生物の生息環境を提供し、地域の生物多様性を向上させながら、渡り鳥の飛来地ともなり得ます。これらの取り組みは、単一の農地だけでなく、周辺の生態系全体に良い影響を与え、地域全体の環境保全に貢献します。

【提案】

有機農業を実践することは、SDGsの達成に向けた具体的な行動であり、私たちの子孫に豊かな地球環境を引き継ぐための重要な選択です。環境保全効果を意識しながら、有機農業への理解を深め、その実践を検討してみましょう。

有機農業で生物多様性メリットを知る

有機農業における生物多様性の向上は、単に環境に良いだけでなく、農業経営にも多くの具体的なメリットをもたらします。これらのメリットを理解することは、有機農業への転換や実践を後押しする大きな動機となるでしょう。

病害虫抑制と生態系サービス

【結論】

生物多様性の豊かな有機農地は、自然の力で病害虫を抑制し、農業に不可欠な生態系サービスを強化します。

【理由】

生物多様性が高い農地では、害虫の天敵となる益虫や鳥類、土壌微生物など、多様な生物が共存しています。これにより、特定の害虫が異常繁殖するのを防ぎ、農薬に頼らずとも病害虫の被害を最小限に抑えることができます。これは、「生物多様性病害虫抑制メカニズム」と呼ばれ、自然の防衛システムが機能している状態です。また、ミツバチなどの訪花昆虫による受粉、土壌微生物による水質浄化や土壌形成など、人間活動に不可欠な「生態系サービス」が強化され、農業生産性向上に貢献します。

【具体例】

静岡県のある有機茶園では、化学農薬を一切使用せず、周辺に様々な種類の植物を植え、生物多様性を高める工夫をしています。その結果、ウンカやチャノホコリダニなどの害虫は発生するものの、クモやテントウムシ、寄生蜂などの天敵が増え、自然なバランスで害虫の被害が抑えられています。また、茶の花に集まるミツバチによって、周辺の果樹園の受粉も促進されるという相乗効果も報告されています。

【提案】

農地の周囲に多様な植物を植えたり、コンパニオンプランツを導入したりすることで、益虫を呼び込み、自然な形で病害虫対策を行うことを検討しましょう。

土壌改良と収量安定への貢献

【結論】

有機農業による土壌中の微生物多様性活性化は、土壌構造を改善し、作物の収量安定に大きく貢献します。

【理由】

有機農業では、化学肥料に代わって堆肥や緑肥を施用します。これにより、土壌中の微生物や小動物が活性化し、有機物の分解を促進し、団粒構造の形成を促します。団粒構造は、土壌の通気性や保水性を高め、根張りの良い健全な作物の生育を促します。また、多様な微生物は、植物の養分吸収を助けたり、病原菌の増殖を抑制したりする効果もあり、これが土壌肥沃化と作物の収量安定に繋がります。

【具体例】

長年、有機農業に取り組むある農家では、毎年緑肥（カバークロップ）を作付けし、それがまだ若い段階で土にすき込んでいます。これにより、土壌はふかふかになり、ミミズや様々な土壌微生物が活発に活動しているのが目に見えて分かります。化学肥料を使っていた頃に比べて、作物の根張りが格段に良くなり、干ばつ時でも土壌が水分を保持しやすいため、収量の年ごとの変動が小さく、安定した収穫が得られています。

【提案】

土壌診断を行い、自身の農地の土壌特性に合った緑肥の導入を検討してみましょう。緑肥は、土壌を健全に保ち、持続的な農業生産を可能にする重要なツールです。

有機農業生物多様性取り組み｜実践手法ガイド

有機農業で生物多様性を高めるには、具体的な実践手法を学ぶことが重要です。ここでは、農地で今日から実践できる様々な取り組みを紹介します。

混作・輪作で育む多様な作物群

【結論】

混作と輪作は、多様な作物を組み合わせることで、農地全体の生物多様性を高め、病害虫のリスクを低減する効果的な手法です。

【理由】

混作（複数の作物を同じ圃場で同時に栽培すること）は、特定の害虫が特定の作物に集中して被害を及ぼすのを防ぎ、天敵の生息環境を提供します。また、根の張り方や養分吸収の仕方が異なる作物を組み合わせることで、土壌養分の偏りを防ぎ、土壌の健全性を保ちます。一方、輪作（異なる種類の作物を毎年順番に栽培すること）は、連作障害の回避や土壌病害の抑制に繋がり、特定の病原菌や害虫の発生を抑える効果があります。これにより、多様な作物群が育まれ、それに伴い多様な生物が生息できる環境が形成されます。

【具体例】

とある有機野菜農家では、キャベツの畝の間にマリーゴールドやレタスを植える混作を行っています。マリーゴールドの根から出る成分がセンチュウの増殖を抑制し、レタスの葉が土壌の乾燥を防ぐ効果も期待できます。また、毎年同じ場所で同じ作物を栽培するのではなく、異なる科の作物を計画的に回す輪作体系を導入することで、土壌の健康を維持し、病害虫の発生を効果的に抑制しています。

【提案】

ご自身の農地の作物計画を見直し、混作や輪作を取り入れることで、作物の多様化を図り、農地の生物多様性を向上させましょう。

緑肥（カバークロップ）で増やす土壌生物

【結論】

緑肥（カバークロップ）の導入は、土壌の健康を保ち、土壌生物の多様性を飛躍的に高める有効な手段です。

【理由】

緑肥作物を栽培し、開花前に土にすき込むことで、土壌に豊富な有機物が供給されます。この有機物が微生物の餌となり、土壌中の細菌、真菌、ミミズなどの活動を活発化させます。結果として、土壌微生物の多様性が増し、土壌構造が改善され、植物の生育に適した環境が生まれます。これが、**「有機農業緑肥メリット」**として広く認識されています。

緑肥の種類と撒き方（有機農業緑肥メリット）

【結論】

緑肥の種類は、それぞれの持つ特性と農地の状態に合わせて選択し、適切な時期に播種することで、最大の効果を得られます。

【理由】

緑肥には、マメ科、イネ科、アブラナ科など様々な種類があり、それぞれ窒素固定能力、土壌侵食防止、雑草抑制、深層からの養分吸い上げなど、異なるメリットがあります。例えば、マメ科のヘアリーベッチは窒素固定能力が高く、イネ科のライ麦は土壌の団粒構造を促進する効果があります。適切な時期に播種し、適切な段階で土にすき込むことで、土壌改良効果を最大限に引き出すことができます。

緑肥の種類と特徴、一般的な撒き方のポイントは以下の通りです。

緑肥の種類	主な特徴とメリット	一般的な撒き方・タイミング
マメ科（ヘアリーベッチ、クリムソンクローバーなど）	・空気中の窒素を土壌に固定し、土壌肥沃度を高める・雑草抑制効果・土壌の団粒化を促進	・作物の収穫後、または休閑期に播種・秋に播種し、春にすき込むのが一般的（越冬性あり）・土壌に浅くすき込む
イネ科（ライ麦、エンバク、ソルゴーなど）	・根が深く張り、土壌の深層から養分を吸い上げる・土壌侵食防止効果・有機物の供給量が多い	・作物の収穫後、または春先・秋口に播種・土壌にしっかりとすき込むことで、有機物を効率的に分解
アブラナ科（えん麦、からし菜など）	・生物的防除効果（センチュウ抑制など）・速効性のある有機物を供給	・短期間で効果を出したい場合に利用・春または秋に播種

【具体例】

ある有機農家は、夏の主作物の収穫後、土壌の肥沃化と雑草抑制のためにヘアリーベッチを播種しています。春になると、一面が紫色の花で覆われ、ミツバチやチョウなどの昆虫が多数飛来し、畑が生き生きとした様子に変わります。その後、ヘアリーベッチを土にすき込むことで、次の作物の生育に必要な窒素が供給され、化学肥料の使用量を大幅に減らすことができています。

【提案】

ご自身の農地の土壌状態や、次に栽培する作物の種類に合わせて、最適な緑肥を選びましょう。地域によっては、緑肥の種子購入に補助金が支給される場合もあるので、地域の農業指導機関に相談してみるのも良いでしょう。

コンパニオンプランツで誘引する多様性

【結論】

コンパニオンプランツ（共栄作物）の活用は、特定の作物の生育を助け、害虫を遠ざけ、益虫を呼び込むことで、農地の生物多様性を豊かにします。

【理由】

コンパニオンプランツは、香りや根から出る成分、または特定の昆虫を引き寄せる性質などを利用して、主作物の病害虫対策や生育促進に貢献します。例えば、マリーゴールドはセンチュウを忌避する効果があり、ネギ類は土壌病害を抑えると言われています。また、花の咲くコンパニオンプランツは、受粉を助けるミツバチや、害虫の天敵となる益虫（テントウムシ、ホソヒラタアブなど）を引き寄せ、結果的に農地全体の多様な生物を誘引します。

【具体例】

トマトのそばにバジルを植えることで、トマトの風味が増し、害虫のコナジラミを遠ざける効果が報告されています。また、バラの近くにニラを植えると、バラの病気を防ぐと言われています。これらの組み合わせは、見た目にも美しく、農地をより豊かな生態系の一部として機能させます。

【提案】

栽培している作物と相性の良いコンパニオンプランツを調べて、積極的に導入してみましょう。小さなスペースからでも効果を実感できるはずです。

休耕地活用・景観多様化のポイント

【結論】

使われていない農地（休耕地）を有効活用し、農地全体の景観多様化を図ることで、生物多様性を大幅に向上させることができます。

【理由】

休耕地を放置するのではなく、積極的に活用することで、周辺の生態系と調和した環境を作り出すことができます。例えば、休耕地に野草や蜜源植物を植えることで、昆虫や鳥類の生息地となり、農地の生物多様性を高めます。また、農地の区画に沿って生垣を設ける、小さな林を造成するなど、農地全体の景観に多様性を持たせることで、より多くの生物が住みやすい環境が生まれます。

【具体例】

ある地域では、耕作放棄地となっていた水田を休耕田として管理し、意図的に草花を育てることで、トンボやカエル、水鳥などが集まるビオトープのような空間を作り出しました。これにより、地域の生物多様性が向上しただけでなく、景観の美しさからエコツーリズムの対象にもなっています。また、畑の周囲に多様な樹木や草花を植えた農家では、鳥の飛来が増え、害虫を食べる鳥による自然な防除効果も現れています。

【提案】

所有している休耕地や農地の周辺環境を見直し、生物多様性向上に繋がる景観多様化の計画を立ててみましょう。地域のNPOや自治体に相談すれば、アドバイスや支援が得られることもあります。

冬期湛水で水辺生物を保全（有機農業冬期湛水方法）

【結論】

水田での冬期湛水は、冬季休閑期に水田に水を張ることで、水辺生物の貴重な生息場所を保全し、生物多様性を高める有効な手法です。

【理由】

冬季に水田を湛水状態に保つことで、カエル、イモリ、ゲンゴロウなどの水生生物や、越冬する鳥類の餌場・休息場所を提供します。これは、特に冬季に乾燥する地域や、水田が少なくなる地域において、水辺の生物多様性を維持する上で極めて重要です。また、冬期湛水は、春先の代かき作業の軽減や、雑草の発生抑制にも繋がるという農業上のメリットもあります。

有機農業冬期湛水方法

【結論】

冬期湛水の方法は、地域の気候や水田の条件に合わせて調整することで、効果的な水辺生物の保全と農業メリットの両立が可能です。

【理由】

冬期湛水を行う際は、水深の管理が重要です。深すぎると水生植物の生育を阻害し、浅すぎると凍結のリスクが高まります。一般的には数センチから10センチ程度の水深が推奨されます。また、水の供給源と排水経路を確保し、水質を良好に保つことも重要です。

冬期湛水の方法と注意点は以下の通りです。

項目	内容
湛水期間	稲刈り後から翌年の田植え前まで（地域によって異なるが、概ね11月～3月頃）
水深の目安	5～10cm程度が一般的。浅すぎると凍結のリスク、深すぎると水生植物の生育阻害の可能性。
水管理	・定期的に水を補給し、水位を維持する・滞留水とならないよう、適度な水の循環を促す（かけ流し、補給・排水の調整）・極度の寒波が予想される場合は、一時的に排水し、凍結による畦畔の破損を防ぐことも考慮
周辺環境との連携	・地域ぐるみで取り組むことで、広域的な水生生物の移動経路を確保できる・鳥獣被害対策も考慮に入れる

【具体例】

新潟県のある有機米農家は、長年にわたり冬期湛水を行っています。冬になると水田は、コハクチョウやマガモなどの渡り鳥の飛来地となり、地域の子供たちの自然学習の場としても活用されています。また、春の代かき時には、湛水によって土壌が柔らかくなり、作業効率が向上したと話しています。

【提案】

ご自身の水田で冬期湛水が可能かどうか、地域の気象条件や水の確保状況を確認してみましょう。小さな区画からでも試してみる価値はあります。

ビオトープ設置手順で生物群集を育成（ビオトープ設置手順）

【結論】

農地内にビオトープを設置することは、多様な生物群集を育成し、農地全体の生態系機能を高める効果的な手法です。

【理由】

ビオトープとは、特定の生物が生息・生育するために必要な環境を人工的に創り出した場所のことです。農地周辺に池、小川、湿地、草地、林などを設置することで、昆虫、両生類、爬虫類、鳥類など、多様な生物の生息地や繁殖地を提供できます。これらの生物の中には、害虫の天敵となったり、受粉を助けたりするものも多く、農地の生態系サービスを強化します。

ビオトープ設置手順

【結論】

ビオトープ設置は、計画から管理まで段階的に行うことで、地域の生態系に調和した持続可能な環境を創出できます。

【理由】

ビオトープは一度作れば終わりではなく、定期的な管理が不可欠です。地域の在来種を優先し、外来種の侵入を防ぐことが重要です。

ビオトープの一般的な設置手順は以下の通りです。

手順	内容
1. 目的設定と調査	・どのような生物を呼びたいか、どのような機能を持たせたいかを明確にする・地域の既存の生態系や在来種について調査する・設置場所の地形、土壌、日当たり、水源などを確認する
2. 設計	・池の深さ、形状、面積、植栽計画などを具体的に設計する・異なる深さの場所を作り、多様な水生生物に対応できるようにする・隠れ場所や日向・日陰の場所を考慮する
3. 造成	・重機や手作業で掘削を行い、池や湿地の形を造成する・遮水シートや粘土などで水漏れ対策を行う（必要な場合）・安全に配慮した設計と施工を心がける
4. 植栽	・地域の在来種の植物を中心に植栽する・水生植物、湿生植物、陸生植物など、多様な種類の植物を配置し、多様な生物に生息環境を提供する・外来種の導入は避ける
5. 管理	・定期的な水質のチェックと清掃を行う・過剰な植生を刈り取るなど、適度な手入れを行う・外来種の侵入がないか監視し、発見した場合は速やかに除去する・周辺環境との調和を意識し、継続的な維持管理を行う

【具体例】

北海道の広大な農地に隣接する場所に、休耕地の一部を利用して小さな池と周辺に湿地帯を造成し、そこに地域の在来種の水生植物や樹木を植えました。数年後には、トンボ、カエル、水鳥だけでなく、タヌキやキツネなどの小動物も現れるようになり、農地の生物多様性が目に見えて向上しました。

【提案】

ビオトープの設置は、専門知識を要する場合もあります。地域のNPOや行政機関が開催するビオトープづくりに関するワークショップなどに参加したり、専門家に相談したりすることから始めてみましょう。

アグロエコロジーとIPMによる統合管理

【結論】

アグロエコロジーの考え方に基づいた**IPM（総合的病害虫・雑草管理）**を実践することで、農地全体の生態系を活用した持続可能な統合管理が可能になります。

【理由】

アグロエコロジーは、農業と生態学を統合した考え方で、自然の生態系プロセスを農業生産に最大限に活用することを目指します。その実践的な手法の一つがIPMです。IPMは、病害虫や雑草の発生状況を定期的に監視し、生物的防除、物理的防除、耕種的防除など、多様な防除手段を組み合わせ、必要最小限の化学農薬使用に留める管理手法です。これにより、農地の生物多様性を保全しながら、効果的な病害虫・雑草管理を実現します。

IPM 生物多様性評価と実践ステップ

【結論】

IPMの導入には、農地の生物多様性を評価し、その結果に基づいた実践的なステップを踏むことが重要です。

【理由】

IPMは画一的な方法ではなく、それぞれの農地の状況に合わせてカスタマイズする必要があります。農地の生物多様性を評価することで、どのような生物がどれだけ存在するかを把握し、それに応じた管理計画を立てることができます。

IPMの評価と実践ステップは以下の通りです。

ステップ	内容
1. 状況把握と評価	・農地および周辺の生態系、主要な病害虫・雑草の種類と発生状況を詳細に調査する・指標生物の観察や生物多様性スコアの活用など、生物多様性の現状を評価する
2. 予防対策の強化	・適切な作物の選択、輪作、混作、健全な土壌づくり、適正な施肥など、病害虫・雑草が発生しにくい環境を整える
3. モニタリング	・病害虫・雑草の発生を定期的に観察し、被害状況や天敵の存在などを記録する・捕虫器やフェロモントラップなどを活用する
4. 防除法の検討と実施	・モニタリング結果に基づき、必要に応じて生物的防除（天敵の導入・保護）、物理的防除（手取り、ネット、トラップ）、耕種的防除（土壌管理、品種選定）など、複数の防除法を組み合わせる・化学農薬の使用は最終手段とし、使用する場合は選択性の高い農薬を最小限に留める
5. 効果の評価と改善	・実施したIPMの取り組みが、病害虫・雑草の抑制にどの程度効果があったか、生物多様性にどのような影響を与えたかを評価する・評価結果に基づき、次の作付け計画や管理方法を改善する

【具体例】

ある果樹園では、IPMを導入し、定期的に害虫の発生状況を調査しています。特定の害虫が増え始めた場合でも、すぐに化学農薬を使うのではなく、まず天敵である益虫を放飼したり、性フェロモンを利用したトラップを設置したりする対策を優先します。これにより、化学農薬の使用量を大幅に削減しながらも、安定した収量を維持し、園内のミツバチなどの益虫も増えました。

【提案】

IPMは、一朝一夕で完成するものではありません。まずは、ご自身の農地の状況を把握し、できることから少しずつ実践を始めてみましょう。地域の農業指導機関や専門家からアドバイスを受けることも有効です。

有機農業生物多様性事例と効果検証

有機農業が生物多様性に与える影響は、理論だけでなく、実際の事例と科学的な効果検証によって裏付けられています。ここでは、具体的な成功事例と、生物多様性を評価する指標について紹介します。

水田での生物多様性向上実例

【結論】

水田における有機農業は、多様な水生生物や鳥類を呼び込み、地域の生態系に大きな恩恵をもたらすことが数々の実例で示されています。

【理由】

水田は、元来、多様な生物が生息する豊かな環境です。しかし、慣行農法による農薬使用や、乾田化の進展により、多くの水田生物が姿を消してきました。有機農業では、化学物質の使用を避け、冬期湛水などの手法を取り入れることで、水田本来の生物多様性を回復させることができます。これにより、イトミミズ、カエル、イモリ、トンボの幼虫（ヤゴ）などの水生生物が増え、それらを餌とするサギやカモなどの鳥類も飛来するようになります。

【具体例】

「コウノトリ育む農法」で知られる兵庫県豊岡市の水田では、有機農業と冬期湛水、魚道の設置などを行うことで、絶滅危惧種のコウノトリが生息できる環境を再生しました。これにより、水田にはドジョウやフナ、様々な水生昆虫が豊富に生息するようになり、コウノトリだけでなく、他の多くの水鳥も一年を通じて観察されるようになりました。この取り組みは、生物多様性保全と地域活性化を両立させた成功事例として国内外から注目されています。

【提案】

ご自身の水田環境を見直し、冬期湛水や水路の整備など、水生生物が暮らしやすい環境づくりを検討してみましょう。地域の自然保護団体との連携も有効です。

畑地・果樹園での多様性と収量バランス

【結論】

畑地や果樹園における有機農業は、生物多様性を高めながらも、適切な管理によって収量バランスを維持・向上させることが可能です。

【理由】

畑地や果樹園では、混作、コンパニオンプランツ、緑肥、生垣の設置など、様々な手法を組み合わせることで生物多様性を高めることができます。多様な植物が共存することで、益虫や鳥類が増え、病害虫のリスクを自然に抑えることができます。また、土壌微生物の活性化により、土壌の肥沃度が向上し、作物の生育が促進され、結果として収量の安定化や品質向上が期待できます。

【具体例】

長野県のある有機りんご園では、除草剤を使わず、草生栽培を基本とし、園内には様々な野草が自生しています。これにより、益虫が豊富に生息し、化学農薬に頼ることなく病害虫の被害を最小限に抑えています。また、ミツバチなどの受粉昆虫が多数飛来するため、着果率が安定し、高品質なリンゴを安定して収穫できています。最初は収量減を心配したものの、数年後には慣行栽培と遜色ない、あるいはそれ以上の収量と品質を実現しています。

【提案】

畑や果樹園の特性に合わせて、多様な植物を組み合わせることで、生物多様性のメリットを最大限に引き出し、持続可能な農業経営を目指しましょう。

指標生物・生物多様性スコアの活用（生物多様性スコア有機農業）

【結論】

指標生物や生物多様性スコアを活用することで、有機農業が生物多様性に与える影響を客観的に評価し、より効果的な保全活動に繋げることができます。

【理由】

生物多様性は目に見えにくい場合が多く、その変化を定量的に把握するには、特定の生物の増減を観察したり、複合的な要素を数値化したりする評価方法が必要です。指標生物は、その生息状況が特定の環境変化や生態系の健全性を示す生物であり、例えば、水田におけるトンボやカエル、土壌中のミミズなどが挙げられます。**「生物多様性スコア有機農業」**は、これらの指標生物の生息状況や、農地の管理状況（緑肥の使用、ビオトープの有無など）を総合的に評価し、数値化するものです。

【具体例】

ある研究機関では、有機農法を導入した水田と慣行農法の水田で、定期的に水生昆虫の種類と数を調査し、それぞれの水田の生物多様性スコアを算出しています。その結果、有機農法を導入した水田では、慣行農法に比べて明らかに多くの種類の水生昆虫が生息し、スコアも高いことが明らかになりました。このようなデータは、有機農業の生物多様性保全効果を客観的に示す有力な根拠となります。

【提案】

ご自身の農地でも、身近な指標生物（例：土壌中のミミズの数、チョウやトンボの種類など）を定期的に観察し、記録してみましょう。より詳細な評価を希望する場合は、地域の研究機関や環境団体に相談し、生物多様性スコアの活用について情報収集することをお勧めします。

有機農業生物多様性課題とデメリット

有機農業による生物多様性保全は多くのメリットがある一方で、いくつかの課題やデメリットも存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが成功への鍵となります。

導入コストとコストパフォーマンス

【結論】

有機農業への転換には初期的な導入コストがかかる場合がありますが、長期的な視点で見れば高いコストパフォーマンスを発揮する可能性があります。

【理由】

有機農業への転換期には、化学肥料や農薬の代わりに有機資材や機械を導入するための費用、土壌改良のための時間と労力、そして慣行農法で使っていた資材が使えなくなることによる一時的な収量減などが発生する可能性があります。これらの初期投資や生産性の低下が、導入コストとして認識されることがあります。しかし、長期的には、土壌の健全化による生産性の向上、病害虫被害の減少による農薬費の削減、環境負荷の低減によるブランド価値向上など、目に見えないコストパフォーマンスが期待できます。

【具体例】

ある農家は、有機農業への転換当初、有機資材の購入費や手作業による雑草対策に多くのコストと労力を費やしました。しかし、数年後には土壌が健康になり、作物の病害虫への抵抗力が増したため、資材費が削減され、安定した収量が得られるようになりました。また、環境意識の高い消費者からの支持を得て、高価格帯での販売が可能になり、結果として経営は安定しました。

【提案】

有機農業への転換を検討する際は、短期的なコストだけでなく、長期的な視点での収益性や環境への貢献度を総合的に評価することが重要です。自治体の補助金制度などを活用し、初期コストを軽減する工夫も有効です。

管理の難しさと慣行農法との比較検証

【結論】

有機農業は慣行農法に比べて、管理に専門的な知識や経験が求められる場合がありますが、その難易度は適切な知識と工夫で克服可能です。

【理由】

化学肥料や農薬に頼らない有機農業では、病害虫や雑草の管理に、よりきめ細やかな観察と、生物多様性を活かした総合的なアプローチが求められます。これは、慣行農法のように「何か問題があれば農薬を散布する」という単純な対応とは異なるため、管理が難しいと感じられることがあります。しかし、多様な生物が共存する環境を理解し、自然のサイクルを農業に取り入れる知識があれば、その難しさは克服できます。

有機農業と慣行農法の管理面での比較は以下の通りです。

項目	有機農業	慣行農法
病害虫・雑草管理	・IPM（総合的病害虫・雑草管理）を基本とし、天敵利用、輪作、混作、手作業など多様な手法を組み合わせる・観察と経験に基づく判断が重要	・化学合成農薬による迅速な対処が主流・体系的な防除スケジュールに従うことが多い
土壌管理	・堆肥、緑肥、有機物投入による土壌生物活性化、団粒構造の維持を重視・長期的な視点での土壌改善	・化学肥料による速効的な養分供給が主流・土壌の物理性・生物性の維持は有機農業ほど重視されない場合がある
水管理	・水資源の循環や水質保全を意識した管理（例：冬期湛水）・地域の生態系との調和を重視	・効率的な灌漑、排水が主眼
知識・経験	・生態系、土壌学、植物生理学など幅広い知識が求められる・観察力と柔軟な対応が重要	・農薬や肥料の使用法に関する知識が中心

【具体例】

有機農業に転換したばかりの農家は、慣行栽培時代には経験しなかった病害虫の発生に戸惑うことがあります。しかし、地域の有機農家の先輩や、農業指導機関のアドバイスを受けながら、病害虫の生態や天敵の活用方法を学ぶことで、徐々に適切な管理方法を身につけていきます。実際、多くの有機農家は、独自の工夫と経験で病害虫の問題を乗り越え、安定した生産を実現しています。

【提案】

有機農業の管理の難しさを乗り越えるためには、座学だけでなく、経験豊富な有機農家との交流や、実践的な研修への参加が非常に有効です。

在来種保全と外来種リスク（在来種保全農業）

【結論】

有機農業における生物多様性保全では、在来種の維持に努めるとともに、外来種の侵入と拡大のリスクを管理することが重要です。

【理由】

在来種保全は、その地域の固有の生態系と遺伝的多様性を守る上で不可欠です。有機農業は、在来種が育ちやすい環境を作り出す一方で、意図せず導入された外来種が在来種を脅かすリスクも抱えています。外来種は、在来種の生息地を奪ったり、捕食したり、病気を持ち込んだりすることで、地域の生態系に深刻な影響を与える可能性があります。特に、栽培作物としての外来種や、緑肥として導入されたものが野生化するリスクも考慮する必要があります。

【具体例】

休耕地やビオトープを整備する際に、安易に海外原産の植物を導入すると、それが逸出して在来種の生態系を破壊する可能性があります。例えば、特定外来生物に指定されているオオカナダモやセイタカアワダチソウなどが、一度侵入すると駆除が困難になり、在来の水草や野草の生育を阻害することがあります。そのため、ビオトープに植える植物や、緑肥の種子を選ぶ際には、在来種を優先し、外来種のリストを確認することが推奨されます。

【提案】

農地やその周辺に植物を導入する際は、必ず在来種であることを確認しましょう。外来種がすでに侵入している場合は、その生態を理解し、適切な方法で除去する対策を講じることが重要です。地域の環境団体や行政機関が提供する外来種に関する情報やガイドラインを参考にしましょう。

制度支援｜有機JAS認証・自然共生サイト（OECM）

有機農業による生物多様性保全の取り組みを後押しするため、国や自治体による様々な制度支援があります。これらの制度を理解し、活用することで、持続可能な農業経営と環境保全を両立させることができます。

有機JAS認証における生物多様性保全基準

【結論】

有機JAS認証は、消費者に安全な農産物を提供するとともに、生物多様性保全に関する一定の基準を満たすことを求める制度です。

【理由】

有機JAS認証は、農林水産省が定める有機食品のJAS規格に基づいて、生産が行われていることを認証する制度です。この規格では、化学肥料や化学合成農薬の使用禁止だけでなく、土壌の健全性や環境への配慮も求められています。具体的には、土壌の肥沃性を維持・向上させるための有機物施用、輪作の実施、病害虫の発生を抑制するための生物多様性を活かした管理などが義務付けられており、これらは間接的に生物多様性保全に貢献します。

【具体例】

有機JAS認証を取得している農家は、毎年、認証機関による厳しい検査を受けます。この検査では、農薬や化学肥料の使用履歴だけでなく、堆肥の管理状況、輪作の実施状況、周辺環境への配慮なども確認されます。例えば、畑の周囲に雑草対策として除草剤を散布していないか、ビオトープが適切に管理されているかなどもチェックされることがあります。これにより、有機JAS認証は単なる「無農薬」ではなく、環境全体への配慮がなされていることの証となります。

【提案】

有機JAS認証の取得は、消費者の信頼を得るだけでなく、生物多様性保全に取り組む姿勢を明確にする上でも有効です。認証基準の詳細を確認し、取得を検討してみましょう。

自然共生サイト認定要件と補助金情報（自然共生サイト認定要件）

【結論】

**自然共生サイト（OECM）**は、私有地における生物多様性保全の取り組みを国が認定し、補助金などの支援を受けられる新たな制度です。

【理由】

**OECM（Other Effective area-based Conservation Measures）**とは、保護地域以外の場所で、生物多様性の保全に貢献している地域を指します。日本ではこれを「自然共生サイト」として位置づけ、企業や個人の敷地内での生物多様性保全の取り組みを評価し、認定する制度が始まりました。認定されることで、保全活動に対する補助金や税制優遇などの支援を受けることができ、私有地での生物多様性保全のインセンティブとなります。これは、政府が2030年までに陸と海の30%を保全することを目指す「30by30目標」の達成に向けた重要な施策です。

自然共生サイト認定要件

【結論】

自然共生サイトの認定要件は、地域の生態系に配慮した具体的な保全活動が行われているかどうかが重視されます。

【理由】

認定要件は、単に生物が生息しているだけでなく、それが意図的かつ継続的な保全活動の結果であるかどうかを評価します。農地の場合、有機農業の実践はもちろんのこと、ビオトープの設置、休耕地の活用、在来種の保全、外来種の管理などが評価の対象となります。

自然共生サイトの主な認定要件は以下の通りです。

要件項目	内容
場所	私有地（企業、団体、個人の所有地）
保全の目的	生物多様性の保全、回復、持続可能な利用を目的とした活動が行われていること
活動内容	・生態系に配慮した土地利用・管理（例：有機農業、自然農法、水田の冬期湛水）・生物多様性ホットスポットの保全・絶滅危惧種の保全・回復・外来種の管理・駆除・ビオトープの設置、生息環境の創出・改善・モニタリング、調査研究、普及啓発活動など
継続性	長期的に保全活動が継続される計画があること
地域との連携	地域住民やNPO、専門機関などとの連携があることが望ましい
情報公開	活動内容や効果について情報公開が適切に行われていること

【具体例】

ある有機農家は、自身の農地の一部をビオトープとして整備し、地域の生態系保全に貢献していました。この取り組みが自然共生サイトとして認定されたことで、国からの補助金を受けられるようになり、さらに保全活動を拡大することができました。また、認定されたことで、地域の子供たちの環境学習の場としても活用されるようになり、地域コミュニティとの連携も深まりました。

【提案】

ご自身の農地での生物多様性保全の取り組みが、自然共生サイトの認定要件を満たしているか確認してみましょう。環境省や地方自治体のウェブサイトで詳細な情報や申請方法が公開されています。

生物多様性国家戦略と農政支援

【結論】

日本の生物多様性国家戦略は、農業分野における生物多様性保全を重要な柱としており、それに伴う様々な農政支援が提供されています。

【理由】

生物多様性国家戦略は、国際的な取り決めである生物多様性条約に基づき、日本が生物多様性を保全・回復するための基本的な方向性を示すものです。この戦略の中で、農業分野は「生産活動を通じて生物多様性を保全・再生する役割」が明確に位置づけられています。具体的には、環境保全型農業の推進、多様な農地利用の促進、中山間地域等における多面的機能の維持などが挙げられます。これに伴い、環境保全型農業直接支払交付金や、持続的生産強化対策事業など、生物多様性保全に資する農業活動を支援する制度が設けられています。

【具体例】

例えば、環境保全型農業直接支払交付金は、化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取り組みや、有機農業に取り組む農業者に対して、面積に応じた交付金が支給されます。また、地域によっては、地域の特性に応じた生物多様性保全活動（例：希少生物の生息地保全、農薬を使用しない水管理など）に対する独自の支援策を設けている自治体もあります。

【提案】

日本の生物多様性国家戦略の概要を理解し、自身の農業活動がどのような形で貢献できるかを考えてみましょう。また、農林水産省や地域の農業関連部署のウェブサイトで、利用可能な農政支援や補助金情報を定期的に確認することをお勧めします。

持続可能な農業生態系サービスを育むポイント

生物多様性の向上は、単に環境を保全するだけでなく、農業が提供する生態系サービスそのものを豊かにし、持続可能な農業経営の基盤を築きます。

多面的機能と生態系サービスの定量化（生態系サービス定量化）

【結論】

農業が持つ多面的機能と生態系サービスを適切に定量化することは、その価値を社会に示し、保全活動への理解と支援を促進する上で重要です。

【理由】

農業は、食料生産という主たる機能だけでなく、洪水防止、土壌浸食防止、地下水涵養、景観形成、文化継承など、様々な「多面的機能」を持っています。これらの機能は、自然のプロセスによって提供される「生態系サービス」の一部であり、私たちの生活に不可欠なものです。しかし、その多くは市場で評価されにくい無償のサービスであるため、その価値が見過ごされがちです。これらのサービスを定量的に評価し、数値として示すことで、農業の持つ環境保全効果がより明確になり、社会全体での認識が高まります。

【具体例】

例えば、水田の持つ洪水防止機能は、どれくらいの雨量を貯留できるかで定量化できます。また、有機農地におけるミツバチによる受粉サービスは、その地域で生産される果物の収量増加にどれだけ貢献しているかを経済価値として換算することも可能です。近年では、ドローンやAIを活用して、農地の生物多様性の変化や、炭素貯留量などを科学的に定量化する研究も進められています。

【提案】

自身の農業活動が提供している生態系サービスや多面的機能について再認識し、可能な範囲でその価値を評価する視点を持つことが大切です。研究機関や専門家の情報を参考に、データ活用を検討してみましょう。

アグロフォレストリー導入による多層的生態系づくり

【結論】

アグロフォレストリーの導入は、樹木と作物を組み合わせることで、多層的生態系を創出し、生物多様性を高めるとともに、農業生産性の向上に貢献します。

【理由】

アグロフォレストリーは、農地に樹木を計画的に配置し、作物栽培や家畜飼育と組み合わせる土地利用システムです。樹木は、根を深く張って土壌の浸食を防ぎ、水分を保持し、落葉によって土壌に有機物を供給します。また、鳥や昆虫の生息場所を提供し、多様な生物を呼び込みます。これにより、地表から樹冠まで、異なる生物が利用できる多層的な生態系が形成され、農地全体の生物多様性が飛躍的に向上します。さらに、樹木からの収穫物（果実、木材など）も得られるため、農業収入の多角化にも繋がります。

【具体例】

鹿児島県のある茶農家は、茶畑の周囲に多様な種類の常緑樹や落葉樹を植え、アグロフォレストリーを実践しています。これにより、強風から茶畑を守り、土壌の乾燥を防ぐだけでなく、樹木に生息する鳥が害虫を捕食し、自然な形で病害虫対策ができています。また、樹木が提供する日陰は、茶葉の品質向上にも貢献し、多角的なメリットを享受しています。

【提案】

ご自身の農地の一部に、地域の気候や土壌に適した樹木を植えることを検討してみましょう。まずは小さなスペースからでも、多層的生態系のメリットを実感できるはずです。

絶滅危惧種・遺伝的多様性の保全

【結論】

有機農業は、絶滅危惧種の生息環境を保全し、作物や家畜の遺伝的多様性を守る上でも重要な役割を担います。

【理由】

慣行農業による画一的な栽培や、農薬の使用は、特定の作物以外の在来種植物や、それに依存する昆虫・鳥類などの生息環境を奪い、絶滅危惧種を危機に瀕させる可能性があります。有機農業では、多様な作物を栽培し、化学物質の使用を避けることで、これらの絶滅危惧種の生息環境を保全します。また、商業的に流通する少数の品種に頼らず、在来の作物や家畜の品種を育て、その遺伝的多様性を守ることは、病害虫や気候変動に対する農業のレジリエンス（回復力）を高める上でも極めて重要です。

【具体例】

ある有機農家は、地域の伝統野菜である在来種のカブを長年栽培し続けています。このカブは、一般的な品種に比べて栽培が難しいとされていましたが、この農家が種子を守り続けることで、その遺伝的多様性が保全されています。また、この農家の水田では、絶滅危惧種に指定されているメダカが生息できるよう、冬期湛水や水路の整備に努めており、メダカの個体数が増加していることが確認されています。

【提案】

ご自身の地域に存在する在来種の作物や家畜について調べてみましょう。もし絶滅の危機に瀕している種があれば、その保全に貢献できる方法を検討してみるのも良いでしょう。

行動喚起｜有機農業生物多様性保全型農業補助金を活かして素敵な未来を手に入れよう

有機農業による生物多様性保全は、私たちの食と環境、そして持続可能な社会を築く上で不可欠な取り組みです。このガイドで学んだ知識を活かし、ぜひ今日から実践の一歩を踏み出しましょう。国や自治体からの保全型農業補助金も賢く活用し、素敵な未来を手に入れてください。

圃場技術導入の第一歩：緑肥・ビオトープ設置のはじめ方

【結論】

有機農業における生物多様性保全の第一歩として、緑肥の導入や、小さなビオトープの設置は、比較的容易に始められる効果的な手法です。

【理由】

緑肥は、土壌の肥沃化と土壌生物の多様性向上に直接的に寄与し、短期間で効果を実感しやすいメリットがあります。また、ビオトープは、たとえ小さなものでも、水辺の生物や昆虫、鳥類など、多様な生物を呼び込む拠点となり、農地全体の生態系ネットワークを強化します。これらは、大規模な設備投資を必要とせず、ご自身のペースで始められるため、初心者の方にもおすすめです。

【具体例】

まずは、収穫後の空いている畝に、マメ科やイネ科の緑肥を播種してみましょう。地域の農業資材店で簡単に種子を手に入れることができます。また、農地の隅に雨水が溜まるような場所があれば、そこを少し掘り下げて、在来の水生植物を植えるだけでも、小さなビオトープとして機能し始めます。

【提案】

まずはできることから、小さな一歩を踏み出してみましょう。成功体験を積み重ねることで、より大きな挑戦へと繋がります。

専門家相談＆補助金申請の手順ガイド

【結論】

有機農業への転換や生物多様性保全の取り組みを始める際は、専門家への相談や補助金申請を積極的に活用することで、スムーズかつ効果的に進めることができます。

【理由】

有機農業や生物多様性保全には専門的な知識が必要な場合もあり、一人で全てを解決しようとすると、時間や労力がかかります。地域の農業指導機関、有機農業に関するNPO、または経験豊富な有機農家は、具体的な栽培方法や病害虫対策、土壌管理について実践的なアドバイスを提供してくれます。また、国や地方自治体は、環境保全型農業や生物多様性保全に資する取り組みに対して、様々な補助金制度を設けています。これらの補助金を活用することで、初期投資や運営コストの負担を軽減し、持続的な活動を可能にします。

【具体例】

各都道府県には、農業普及指導センターや有機農業相談窓口が設置されています。ここに相談すれば、有機農業への転換計画の策定、栽培技術指導、そして利用可能な補助金制度の情報提供を受けることができます。例えば、環境保全型農業直接支払交付金や、持続的生産強化対策事業などの申請手続きについて、具体的なアドバイスを受けることが可能です。

【提案】

まずは地域の農業関連機関に問い合わせてみましょう。無料で相談できる窓口も多く、具体的な情報やサポートを得られるはずです。